ベクトルオペレータ

2021年9月8日

SATの電験2種講座

電験2種で度々見かけるベクトルオペレータを理解する為には、始めにベクトルの表し方を知る必要があります。難易度はそこまで高くありませんが、電気数学を扱う上で大事な単元なので深い理解をしておくべきだと思います。

ベクトルの表し方

電験でのベクトルの表し方としては以下の3種類の表し方を覚えておくとよいでしょう。それぞれ簡単に説明していきます。

下図は相順がa,b,cで大きさが1[V]の対称三相交流の相電圧のベクトル図です。

①直交座標表示

直交座標表示は、ベクトルを複素平面上の実数成分と虚数成分の2項に分けてベクトルを表す表示法です。

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =1 \\ \dot { { E }_{ b } } =-\frac { 1 }{ 2 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \\ \dot { { E }_{ c } } =-\frac { 1 }{ 2 } +j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \end{cases}$$

こんな感じで表せます。電験3種でも使っていた・・・はずだよね!

 

②フェーザ表示(極座標表示)

数学の世界では極座標表示、電気の世界では極形式によるフェーザ表示と呼ばれています。

このサイトは電験のサイトですので、フェーザ表示で統一します。

フェーザ表示は『ベクトルの大きさ∠偏角』の形で表されます。

上図の場合なら、\(\dot { A } =r\angle \theta \)で表せます。また、最初に挙げた例の場合は

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =1\angle 0° \\ \dot { { E }_{ b } } =1\angle 240°=1\angle \frac { 4 }{ 3 } π \\ \dot { { E }_{ c } } =1\angle 120°=1\angle \frac { 2 }{ 3 } π \end{cases}$$

\({E}_{b}と{E}_{c}\)の偏角は引っかかりやすいので注意してください。

また、偏角を負の数を使って表すこともできます。その場合は

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =1\angle 0° \\ \dot { { E }_{ b } } =1\angle -120°=1\angle -\frac { 2 }{ 3 } π \\ \dot { { E }_{ c } } =1\angle -240°=1\angle -\frac { 4 }{ 3 } π \end{cases}$$

こんな感じになります。

 

③指数関数形表示

指数関数形表示は先ほどのフェーザ表示ととても似ています。

指数関数形表示はオイラーの公式\({ e }^{ j\theta }=cos\theta +jsin\theta \)を用いて、

『\(ベクトルの大きさ×{e}^{jθ}\)』の形で表されます。最初に挙げた例の場合

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =1{ e }^{ j0 } \\ \dot { { E }_{ b } } =1{ e }^{ j\frac { 4 }{ 3 } π } \\ \dot { { E }_{ c } } =1{ e }^{ j\frac { 2 }{ 3 } π } \end{cases}$$

このようになります。勿論係数の1は省略できます。(分かりやすく説明する為に表記しているだけです。)

 

ベクトルオペレータ

ベクトルオペレータは、大きさが1で偏角が120°の単位ベクトルのことで『\({a}\)』で表されます。

ベクトルオペレータを直交座標表示フェーザ表示で表すと、

ベクトルオペレータ
$$a=-\frac { 1 }{ 2 } +j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } =1\angle 120°=1\angle \frac { 2 }{ 3 } π$$

このようになります。また、単位ベクトルは2乗すると偏角が2倍になる性質があるので、

ベクトルオペレータの性質

$${ a }^{ 2 }=-\frac { 1 }{ 2 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } =1\angle 240°=1\angle \frac { 4 }{ 3 } π$$

$${ a }^{ 3 }=1$$

このような公式が出来上がります。この二つの式は暗記でOKですが、後で導出もしてみましょう。

上記3つをベクトル図に表すと下図のようになります。

なんとなく図から直観で分かると思いますが

ベクトルオペレータの性質
$${ a }^{ 2 }+a+1=0$$

が成立します。これも覚えておきましょう。

 

さて、どのようにこのaを使うかというと・・・例えば、下図のような大きさがEの対称三相交流の相電圧のベクトル図があったとしましょう。

今までの表し方だと、

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =E \\ \dot { { E }_{ b } } =E\left( -\frac { 1 }{ 2 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \right) \\ \dot { { E }_{ c } } =E\left( -\frac { 1 }{ 2 } +j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \right) \end{cases}$$

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =E\angle 0° \\ \dot { { E }_{ b } } =E\angle 240°=E\angle \frac { 4 }{ 3 } π \\ \dot { { E }_{ c } } =E\angle 120°=E\angle \frac { 2 }{ 3 } π \end{cases}$$

$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =E{ e }^{ j0 } \\ \dot { { E }_{ b } } =E{ e }^{ j\frac { 4 }{ 3 } π } \\ \dot { { E }_{ c } } =E{ e }^{ j\frac { 2 }{ 3 } π } \end{cases}$$

となりますが、ベクトルオペレータを用いて表すと、

point!
$$\begin{cases} \dot { { E }_{ a } } =E \\ \dot { { E }_{ b } } ={ a }^{ 2 }E \\ \dot { { E }_{ c } } =aE \end{cases}$$

このように表すことができます。

めっちゃスッキリ!!(`・ω・´) これなら数式も見やすく計算しやすそうですね。

こんな感じでスッキリ表すような使い方をするのがベクトルオペレータです。

どこか腑に落ちない感じがしますが、これだけ覚えていればベクトルオペレータに関しては大丈夫です。

 

ベクトルオペレータの性質の導出

先ほど

$${ a }^{ 2 }=-\frac { 1 }{ 2 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } $$

$${ a }^{ 3 }=1$$

をすーっと説明しましたが、念の為に導出もやっておきましょう。(こういったちょっとしたことを一度やっておくと何かあったときにきっと役立ちます。)

$$a=-\frac { 1 }{ 2 } +j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } $$

$${ a }^{ 2 }={ \left( -\frac { 1 }{ 2 } +j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \right) }^{ 2 }$$

$${ a }^{ 2 }=\frac { 1 }{ 4 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } -\frac { 3 }{ 4 } $$

$${ a }^{ 2 }=-\frac { 1 }{ 2 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } $$

ということで導出できました。ついでに\({a}^{3}=1\)も導出しましょう。

$${ a }^{ 3 }={ a }^{ 2 }×a=\left( -\frac { 1 }{ 2 } -j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \right) \left( -\frac { 1 }{ 2 } +j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \right) $$

和と差の積の公式を使ってみます。

$${ a }^{ 3 }={ \left( -\frac { 1 }{ 2 } \right) }^{ 2 }-{ \left( j\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \right) }^{ 2 }$$

$${ a }^{ 3 }=\frac { 1 }{ 4 } -\left( -\frac { 3 }{ 4 } \right) =1$$

こちらも導出できました。

以上でベクトルオペレータの説明終了です。お疲れさまでした!

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