電力用コンデンサによる力率改善

2021年9月8日

SATの電験2種講座

送電端と受電端の電圧降下

電力系統の電線路では下図のようにインピーダンスZ=R+jXが存在しています。(極僅かですが)

よって、この電線路に電流I[A]が流れることで、送電端と受電端に電圧降下ΔV[V]が発生します。

この電圧降下ΔV[V]を求める手段は何パターンもありますが、代表的なものを3パターン紹介しておきます。

 

電圧降下ΔVを求める方法

①\({V}_{s}\)、\({V}_{r}\)を求め、\({\Delta}{V}={V}_{s}-{V}_{r}\)で求めるパターン(精密式)

②線路インピーダンスと電流値を使い、\({\Delta}V=\sqrt { 3 } (IRcos\theta +IXsin\theta )\)で求めるパターン(近似式)

③受電端の有効電力P[W],無効電力Q[var]を使い、\({\Delta}V=\frac { PR+QX }{ { V }_{ r } } \)で求めるパターン(近似式)

 

電験2種では近似式を使っても良いので、②式や③式で解くと素早く解けますが、一応①~③の導出は一連の流れで説明できるので①の公式も含めて全ての公式を導出していきます。

 

公式の導出

パターン①

まずは回路図からベクトル図を描きます。

次に、\(\dot { { E }_{ r } } \)を基準ベクトルとして、下図のように縦成分と横成分に分解します。

ここで

$$\dot { { E }_{ s } } ={ { E }_{ r } } +\dot { I } R+j\dot { I } X$$

となるので、

精密式
$${ E }_{ s }=\sqrt { { \left( { E }_{ r }+IRcos\theta +IXsin\theta \right) }^{ 2 }+\left( IXcos\theta -IRsin\theta \right) ^{ 2 } } $$

となり、この精密式から、\({ E }_{ s }\)や、\({ E }_{ r }\)を求めて、ΔVを求めるのがパターン①です。精密式を使っているので正確な値が出せます。

 

パターン②

次に、上式において赤線部分一般的に非常に小さな値で、この部分を0と近似すると、

$${ E }_{ s }={ E }_{ r }+IRcos\theta +IXsin\theta $$

$${ E }_{ s }{ -E }_{ r }=IRcos\theta +IXsin\theta $$

$$\sqrt { 3 } \left( { E }_{ s }{ -E }_{ r } \right) =\sqrt { 3 } \left( IRcos\theta +IXsin\theta \right) $$

point!
$${ V }_{ s }-{ V }_{ r }={\Delta}V=\sqrt { 3 } \left( IRcos\theta +IXsin\theta \right) …①$$

となり、電験3種でもお馴染みの公式が導かれます。ちなみにこの公式は、近似を使用しているので近似式となります。よってこの公式を使う際には必ず近似式使用の宣言を行ってください!これがパターン②

 

パターン③

パターン③はパターン②で導かれた式を負荷の有効電力PやQを用いて式変形するだけです。まずはPとQについて式で表すと

$$P=3{ E }_{ r }Icos\theta $$

$$Q=3{ E }_{ r }Isin\theta $$

この二つの式を式変形して

$$Icos\theta =\frac { P }{ 3{ E }_{ r } } …②$$

$$Isin\theta =\frac { Q }{ 3{ E }_{ r } } …③$$

②・③式を①式に代入すると

$$ΔV=\sqrt { 3 } (R×\frac { P }{ 3{ E }_{ r } } +X×\frac { Q }{ 3{ E }_{ r } } )$$

$$ΔV=\frac { PR }{ \sqrt { 3 } { E }_{ r } } +\frac { QX }{ \sqrt { 3 } { E }_{ r } } $$

point!
$$ΔV=\frac { PR+QX }{ { V }_{ r } } $$

となり、電流Iを使わず、負荷の有効電力P・無効電力Qを用いた形の式が導かれます。PやQが分かっている場合の問題はこの式を使う事が結構多いように思います。ちなみに、こちらも近似式なので何度も言いますが、必ず近似式使用の宣言を行ってください!これがパターン③

一つの流れで3つも公式が覚えられるので是非ともこの導出はマスターしておくべきだと思います。

 

練習問題

【問題】電力・管理 平成7年より

A変電所からB変電所に電力を送る送電線において、A変電所からの送電端電圧\({V}_{s}\)を67[kV]に維持した運用をしている。負荷が30000[kW](遅れ力率)であるB変電所において、電力用コンデンサを投入して受電端の電圧\({V}_{r}\)を65[kV]から66[kV]に改善したい。

必要なコンデンサ容量を求めよ。ただし、送電線のこう長が非常に短く、そのインピーダンスは(2+j6)[Ω]とする。

 

【解き方】

送電端と受電端の電圧降下をΔV[V]、送電線の抵抗をR[Ω]、リアクタンスをX[Ω]、負荷の有効電力をP[W]、無効電力をQ[var]としたとき、電圧降下の近似式を使用すると

$$ΔV=\frac { RP+XQ }{ { V }_{ r } } $$

となる。コンデンサを投入する前について各値を代入すると

$$67000-65000=\frac { 2×30000×{ 10 }^{ 3 }+6×Q }{ 65000 } $$

$$130×{ 10 }^{ 6 }=60×{ 10 }^{ 6 }+6Q$$

$$6Q=70×{ 10 }^{ 6 }$$

$$Q=11.667{ ×10 }^{ 6 }[var]$$

次にコンデンサを投入した後について同様に計算を行うと

$$67000-66000=\frac { 2×30000×{ 10 }^{ 3 }+6×Q }{ 66000 } $$

$$66×{ 10 }^{ 6 }=60×{ 10 }^{ 6 }+6Q$$

$$6Q=6×{ 10 }^{ 6 }$$

$$Q=1{ ×10 }^{ 6 }[var]$$

コンデンサ投入前と投入後で無効電力の差が投入したコンデンサ容量\({Q}_{c}\)[var]となるので

$${ Q }_{ c }=11.667{ ×10 }^{ 6 }-1{ ×10 }^{ 6 }$$

$${ Q }_{ c }=10.667{ ×10 }^{ 6 }[var]$$

$${ Q }_{ c }≒10.7[Mvar]…(答)$$

という感じで答えが導かれます。コンデンサの投入によって無効電力を小さくして、電圧降下を小さくした結果、受電端電圧が高くできるということですね。電力コンデンサの投入がどういう影響及ぼすかが数字で見えるのでとても面白い問題ですよね。

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