異容量V結線
このV結線の単元は個人的に難易度が高い単元の一つだと思います。まずはイメージつけるために、V結線の特徴を説明して、外堀が埋め終わった段階で異容量V結線の話に移ります。かなりきついと思いますが頑張りましょう!
V結線とは
下図のように単相変圧器3台を△‒△結線として、ここから1台の単相変圧器を取り除いたときの結線をV結線と言います。(Vは多分Vの形をしているからだと思います…)
V結線の特徴として、三相負荷に電気を供給できるが利用率が悪くなるという特徴がありましたね。2つの変圧器で三相負荷に電気を供給しているので、利用率は
$$利用率=\frac { \sqrt { 3 } { V }_{ 2 }{ I }_{ 2 } }{ 2{ V }_{ 2 }{ I }_{ 2 } } ×100≒86.6[%]$$
という感じでした。
ここまでが電験3種のおさらいです。
さて、電験2種では異容量V結線と呼ばれる問題が度々出題されているので、次にその概要を説明します。
異容量V結線
異容量V結線は下図のように、異なる容量の変圧器2台がV結線されているもののことを言います。
なぜ異容量にするかというと、\({T}_{1}\)は三相負荷への電気の供給だけでいいのに対して、\({T}_{2}\)は単相負荷と三相負荷の両方に電気を供給する必要があるからです。
こうすることで変圧器の利用率を高めることができるというメリットがあります。これは練習問題を通して確認しましょう。
また、\({T}_{1}\)は「専用変圧器」、\({T}_{2}\)は「共用変圧器」という名前がついていることもセットで覚えておくとよいでしょう。
ちなみに余談ですが、単相負荷をまとめて電灯系、三相負荷をまとめて動力系と呼ばれていて以下のような具体例があります。
【電灯の例】(単相負荷)
- 蛍光灯やLED照明など
- ACコンセントにつながる負荷全て
【動力の例】(三相負荷)
- エレベータ
- エスカレータ
- ポンプ
- 電動シャッター
- 機械式駐車場
こんなことも頭に入れておくとイメージつきやすいですね。
また、実際の単相負荷は下図のようになっていることがほとんどです。
しかし、赤矢印の部分に流れる電流が基本的に0[A]なので先ほどの図のように一つの単相負荷として考えた方が分かりやすいと思います。
全体像が大体掴めたところで、問題の解き方にうつります。
異容量V結線の解き方
基本的に以下のような流れで解くといいかと思います。
①回路図上で電流や電圧を定義する。
②ベクトル図を書く。
③ベクトル図を用いて色々と求める。(雑)
というわけで順番に説明していきます。
①電流や電圧の定義
まずはこんな感じで電流と電圧を定義しましょう。単位はゴチャゴチャするので省略していますが、当然[A]と[V]です。単相負荷と三相負荷の力率は別として考えるところにも注意してください。
電流についてまとめておくと、
$$\begin{eqnarray}{ \dot { I } }_{ a0 }&=&{ \dot { I } }_{ a }+{ \dot { I } }_{ 1 }\\\\{ \dot { I } }_{ b0 }&=&{ \dot { I } }_{ b }-{ \dot { I } }_{ 1 }\\\\{ \dot { I } }_{ c0 }&=&{ \dot { I } }_{ c }\end{eqnarray}$$
こんな感じになりますね。
また、\({ \dot { I } }_{ a }{ \dot { I } }_{ b }{ \dot { I } }_{ c }\)は、3つとも大きさが同じで互いに位相差が120°となっています。
電圧については、\({ \dot { V } }_{ ab }{ \dot { V } }_{ bc }{ \dot { V } }_{ ca }\)の3つとも大きさが同じで互いに位相差が120°となっています。
②ベクトル図を書く
ここが一番難しいかと思います。順番に説明していきます。
まずは、最初に\({ \dot { V } }_{ ab }\)を基準ベクトルとして、\({ \dot { V } }_{ ab }{ \dot { V } }_{ bc }{ \dot { V } }_{ ca }\)をベクトル図に表しましょう。ややこしくなるので回路図には書いていませんが相電圧\({ \dot { E } }_{ a }{ \dot { E } }_{ b }{ \dot { E } }_{ c }\)も表していきます。
電圧のベクトル図は規則正しい図なので迷う事はないはずです。30°の位相差だけ気を付けましょう。
次に電流のベクトル図を書きます。
\({ \dot { I } }_{ 1 }\)は\({ \dot { V } }_{ ab }\)より\({θ}_{1}\)遅れていること。
\({ \dot { I } }_{ a }{ \dot { I } }_{ b }{ \dot { I } }_{ c }\)はそれぞれ\({ \dot { E } }_{ a }{ \dot { E } }_{ b }{ \dot { E } }_{ c }\)より\({θ}_{3}\)遅れていること。
を考慮して、とりあえず4つの電流\({ \dot { I } }_{ 1 }\)\({ \dot { I } }_{ a }{ \dot { I } }_{ b }{ \dot { I } }_{ c }\)を書きます。
\({ \dot { I } }_{ a }{ \dot { I } }_{ b }{ \dot { I } }_{ c }\)の3つのベクトル図は規則正しくなるのでこれも簡単ですが、\({ \dot { I } }_{ 1 }\)だけ少し異端な感じですね。
最後に
$$\begin{eqnarray}{ \dot { I } }_{ a0 }&=&{ \dot { I } }_{ a }+{ \dot { I } }_{ 1 }\\\\{ \dot { I } }_{ b0 }&=&{ \dot { I } }_{ b }-{ \dot { I } }_{ 1 }\\\\{ \dot { I } }_{ c0 }&=&{ \dot { I } }_{ c }\end{eqnarray}$$
を使って、残りの電流を書いていきます。ここまで来た皆さんならできるはず!!!
というわけでお疲れ様でした。V結線のベクトル図完成です!(何これ?)
これだけ分かれば後は数学の知識を用いて様々な値を求められるはずです。
さて、一応練習問題解いておきましょうか。
練習問題
【問題】
図のように、定格容量30[kV・A]及び50[kV・A]の変圧器を異容量V結線とした対称三相交流電源がある。
三相の最大平衡負荷を接続し、次の単相負荷を図のように接続して、変圧器の利用率を最大とする。このとき、次の値を求めよ。
ただし、変圧器及び線路のインピーダンスは無視するものとする。
【平成23年電力管理より 改題】
(1)三相の最大平衡負荷[kW]
(2)単相負荷の合計[kW]
(3)変圧器の利用率[%]
【解き方】
まずは電流と電圧の定義からします。
問題文とこの図から分かることをまとめておきましょう。
\({ \dot { I } }_{ a }{ \dot { I } }_{ b }{ \dot { I } }_{ c }\)の大きさを\({I}\)、\({ \dot { V } }_{ ab }{ \dot { V } }_{ bc }{ \dot { V } }_{ ca }\)の大きさを\({V}\)、
とすると、
$${ P }_{ 3 }=\sqrt { 3 } VIcos{ \theta }_{ 3 }…①$$
となります。また、
$${ P }_{ 1 }=V{ I }_{ 1 }cos{ \theta }_{ 1 }$$
となります。
(1)
三相負荷\({ P }_{ 3 }\)が最大となるのは、①式の\(cos{ \theta }_{ 3 }=1\)となる場合です。また、三相負荷は専用変圧器\({T}_{1}\)の容量で制限されるので、
$$\begin{eqnarray}{ P }_{ 3 }&=&\sqrt { 3 } VIcos{ \theta }_{ 3 }\\\\{ P }_{ 3 }&=&\sqrt { 3 } { V }_{ bc }{ I }_{ c }cos{ \theta }_{ 3 }\\\\ { P }_{ 3 }&=&\sqrt { 3 } ×30×1\\\\ { P }_{ 3 }&=&51.961\\\\ { P }_{ 3 }&≒&52.0[kW]\end{eqnarray}$$
という風に求められます。
(2)
変圧器の利用率を最大にするためには、
「単相負荷で最大負荷を消費」として考えるのではなく「共用変圧器\({T}_{2}\)で最大負荷を消費する」という考え方をしなければなりません。(ここ注意!)
なので、\({ \dot { V } }_{ ab }\)と\({ \dot { I } }_{ 1 }\)が同相の時に最大負荷ではなくて、
\({ \dot { V } }_{ ab }\)と\({ \dot { I } }_{ a0 }\)が同相の時に最大負荷になります!
ちなみにこの時のベクトル図はこんな感じです。
結構強烈なベクトル図ですがじっくり見てください。色々と見えてくるはずです。
さて、単相負荷\({P}_{1}\)は
$${ P }_{ 1 }={ V }_{ ab }{ I }_{ 1 }cos{ \theta }_{ 1 }…②$$
で求められますが、\({θ}_{1}\)が分からないので別の形で表します。
上のベクトル図より、
$${ I }_{ 1 }cos{ \theta }_{ 1 }={ I }_{ a0 }-{ I }_{ a }cos30°$$
となるので、これを②式に代入します。(この式がトリッキーで難しい!)
$$\begin{eqnarray}{ P }_{ 1 }&=&{ V }_{ ab }\left( { I }_{ a0 }-{ I }_{ a }cos30° \right) \\\\ { P }_{ 1 }&=&{ V }_{ ab }{ I }_{ a0 }-{ V }_{ ab }{ I }_{ a }cos30°\\\\ { P }_{ 1 }&=&50-{ V }_{ bc }{ I }_{ c }cos30°\\\\ { P }_{ 1 }&=&50-30×\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } \\\\ { P }_{ 1 }&=&24.019\\\\ { P }_{ 1 }&≒&24.1[kW]\end{eqnarray}$$
ということで単相負荷が求められました。この問題だけで理解するのに僕は3日ほどかかりました。難しすぎて笑えてきます。
(3)
これは超簡単。二つの変圧器で単相負荷と三相負荷に供給しているだけなので、利用率は
$$\frac { 51.961+24.019 }{ 50+30 } ×100=94.975≒95.0[%]$$
これで以上となります。
一番最初に説明した三相負荷のみの利用率86.6[%]と比べてとても大きいですよね。
異容量V結線のメリットはこの利用率の高さにあります。少し難しい単元でしたが、ベクトル図がとても大切な単元だと個人的に思います。後は最大負荷となる条件も大切ですね。何回も繰り返し解いて白紙の状態から解けるように頑張りましょう。
以上です!お疲れ様でした。