高調波電流
高調波とは
高調波はひずみ波交流に含まれている、基本波の整数倍の周波数をもつ正弦波電流のことです。
下のグラフで説明すると
青線が基本波で、例えば60[Hz]の周波数とすると、
オレンジ線が第3高調波と呼ばれ、180[Hz]の周波数となり、
灰色線が第5高調波と呼ばれ、300[Hz]の周波数となります。
この3つの波形を合成したのが黄色線でひずみ波交流と呼ばれています。
こういった高調波はスイッチング素子などで整流を行うインバータやアーク電流などから発生します。
高調波の良くない点
例えば、第5高調波が電力コンデンサに流れ込むと、電力コンデンサはインピーダンス\({Z}_{c}\)[Ω]が周波数に反比例するので、インピーダンスが5分の1となり、過電流が流れ、加熱焼損に至る危険性があります。
その為、電力コンデンサには必ずセットで直列リアクトルを設置します。
論述問題でも出題されますが、直列リアクトル設置の目的は以下の2点です。ついでなので覚えておきましょう。
・高調波の緩和
・電力コンデンサ投入時の突入電流の緩和
ここからは、設置する直列リアクトル容量をいくらにすれば、電力コンデンサに流入するn次高調波電流が高調波発生源の電流よりも大きくならないかを考えていきましょう。
練習問題
【問題】
図は、系統電源に接続された自家用電気設備の単線結線図である。変圧器の2次側母線には高調波を発生する負荷設備と力率改善用の直列リアクトル付進相コンデンサ設備が設置されている。
\({X}_{T},{X}_{L},{X}_{L}\)は、それぞれ変圧器、直列リアクトル、進相コンデンサの基本波におけるリアクタンスの大きさ(Ω値)である。
また、電流\({I}_{H},{I}_{S},{I}_{C}\)は、それぞれ高調波発生負荷からの高調波発生電流、系統電源側に流出する高調波電流、進相コンデンサ設備に流入する高調波電流とする。このとき、次の問に答えよ。
ただし、系統電源側のインピーダンス及び変圧器の抵抗分は無視するものとする。
(H30電力・管理より改題)
(1) n次高調波電流源を電源とする高調波等価回路を描くとともに、\({I}_{Hn},{I}_{Sn},{I}_{Cn}\)それぞれに対し、電流の方向を矢印で示せ。
(2) (1)のn次高調波等価回路において、n次高調波電流源の電流\({I}_{Hn}\)と各部のリアクタンスの大きさを用いて、進相コンデンサ設備に流入するn次高調波電流\({I}_{Cn}\)を表す式を示せ。
(3) \({I}_{Cn}\)を表す式において、回路で共振を起こす条件式を示せ。
(4) \({I}_{Cn}\)を表す式において、進相コンデンサ設備に流入するn次高調波電流が,高調波発生源の電流よりも大きくならないようにするための条件式を示せ。
【解き方】
(1) n次高調波発生機器を電流源として、系統電源と進相コンデンサ設備に流れ込むような回路図を作ります。
このとき、リアクタンスについてリアクトルがn倍、コンデンサが1/n倍になるので注意しましょう。(高調波の一番大事なポイントは多分これだと僕は思います。)
(2) \({I}_{Hn}\)を用いて\({I}_{Cn}\)を表す際、分流の考え方を用いて解くだけです。
$${ \dot { I } }_{ Cn }={ \dot { I } }_{ Hn }×\frac { jn{ X }_{ T } }{ jn{ X }_{ T }+jn{ X }_{ L }-j\frac { { X }_{ c } }{ n } } $$
$${ \dot { I } }_{ Cn }={ \dot { I } }_{ Hn }×\frac { n{ X }_{ T } }{ n\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) -\frac { { X }_{ c } }{ n } } $$
右辺の虚数jが全て外せた事によりベクトルの記号を外せますので
$${ I }_{ Cn }={ I }_{ Hn }×\frac { n{ X }_{ T } }{ n\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) -\frac { { X }_{ c } }{ n } } …①$$
これだけです。等価回路さえ書ければ難易度が一気に下がりますね。
(3) 並列共振を起こすためには、各並列回路部分のインピーダンスの和が0となればよいので、
$$jn{ X }_{ T }+jn{ X }_{ L }-j\frac { { X }_{ c } }{ n } =0$$
$$n\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) -\frac { { X }_{ c } }{ n } =0$$
$${ n }^{ 2 }\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) -{ X }_{ c }=0$$
$${ X }_{ c }={ n }^{ 2 }\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) $$
これが並列共振を起こす条件となります。
※今回は\({ X }_{ c }=\)の形で共振条件を求めましたが、最初の式が決まれば後の式変形は、ある程度単純化すればどのようにしてもOKです。
(4)問題文より、\({ I }_{ Hn }\)<\({ I }_{ Cn }\)としないようにしなければならないので\({ I }_{ Hn }≧ { I }_{ Cn }\)としなければいけません。
①式より
$$\frac { n{ X }_{ T } }{ n\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) -\frac { { X }_{ c } }{ n } } ≦ 1$$
$$n{ X }_{ T }≦ n\left( { X }_{ T }+{ X }_{ L } \right) -\frac { { X }_{ c } }{ n } $$
$$0≦ n{ X }_{ L }-\frac { { X }_{ c } }{ n } $$
$${ X }_{ c }≦ { n }^{ 2 }{ X }_{ L }$$
これが進相コンデンサ設備に流入するn次高調波電流が,高調波発生源の電流よりも大きくならないようにするための条件式ということですね。
ちなみに、n=5(第5高調波)を代入すると分かりますが、直列リアクトルのリアクタンスは進相コンデンサの4%以上で良いことが分かります。
ただ、実際問題は若干の余裕を見て6%容量がよく使われ、第3高調波が多い場合は13%を選定されることが多いです。
※電験2種か1種か忘れましたが、一次電力でこの数値が出題されたこともありました。