送電線路
この単元は、平成8・16・23・26年と出題頻度が高く大事な単元の一つです。ほとんどの問題がパターンで解けるのでその要点を説明していきます。
問題の形式と求める要素
基本的には下図のような送電線路の問題が出題されて、様々な要素を求めさせるのが定番パターンです。
様々な要素・・・というのは例えば下のようなもの。
①電流\(\dot { I } [A]\)
②送電端電圧\({ \dot { V } }_{ s }[V]\)と受電端電圧\({ \dot { V } }_{ r }[V]\)
③負荷の有効電力\(P[W]\)と無効電力\(Q[var]\)
④受電端力率\(cosθ\)
この4つの求め方を説明していきます。
全体的に途中式が長くなるのですが、最初の式さえ出せたら後はほぼ数学力でカバーできます。
よって、最初の式に着目して読み進めていってください。
①電流(2パターン)
ベクトル図を使って方程式から解く場合
受電端電圧と送電端電圧の位相差を\(δ\)としてこの回路図のベクトル図を表すと下図のようになります。
(ベクトル図の書き方はこちらのページでまとめています!)
ベクトル図より\({ \dot { E } }_{ s }\)を求める式は\({ \dot { E } }_{ r }\)を基準ベクトルとして
$${ \dot { E } }_{ s }= { E }_{ r }+\dot { I } \left( R+jX \right) …①$$
これを式変形して
$$\begin{eqnarray}\dot { I } &=&\frac { { \dot { E } }_{ s }-{ E }_{ r } }{ R+jX } \\\\ \dot { I } &=&\frac { { E }_{ s }cosδ+j{ E }_{ s }sinδ-{ E }_{ r } }{ R+jX }…② \\\\ \left| \dot { I } \right| &=&\frac { \sqrt { { \left( { E }_{ s }cosδ-{ E }_{ r } \right) }^{ 2 }+{ \left( { E }_{ s }sinδ \right) }^{ 2 } } }{ \sqrt { { R }^{ 2 }+{ X }^{ 2 } } } \end{eqnarray}$$
このように求めることができます。
電力の公式から求める場合
負荷の有効電力と無効電力を使って
$$3{ E }_{ r }\bar { \dot { I } } =P+jQ…③$$
を式変形すると
$$\begin{eqnarray}\bar { \dot { I } } &=&\frac { P+jQ }{ 3{ E }_{ r } } \\\\ \dot { I } &=&\frac { P-jQ }{ 3{ E }_{ r } } \\\\\left| \dot { I } \right| &=&\frac { \sqrt { { P }^{ 2 }+{ Q }^{ 2 } } }{ 3{ E }_{ r } } \end{eqnarray}$$
という風に求めることができます。
このように電流は二つの求め方がありますが、電力P,Qが問題文中にあるかないかで使い分けるといいと思います。
②送電端電圧と受電端電圧
送電端電圧は先ほどのベクトル図を使った①式から求めます。
$$\begin{eqnarray}{ \dot { E } }_{ s }&=&{ E }_{ r }+\dot { I } \left( R+jX \right) \\\\ { \dot { E } }_{ s }&=&{ E }_{ r }+\left( Icosθ-jIsinθ \right) \left( R+jX \right) \\\\ { \dot { E } }_{ s }&=&{ E }_{ r }+IRcosθ+IXsinθ+j\left( IXcosθ-IRsinθ \right) \\\\ \left| { \dot { E } }_{ s } \right| &=&\sqrt { { \left( { E }_{ r }+IRcosθ+IXsinθ \right) }^{ 2 }+{ \left( IXcosθ-IRsinθ \right) }^{ 2 } } \end{eqnarray}$$
この\( { E }_{ s }\)を\(\sqrt { 3 } \)倍して\( { V }_{ s }\)を求めることができます。
受電端電圧も同様に
$$\begin{eqnarray}{ \dot { E } }_{ s }&=&{ E }_{ r }+\dot { I } \left( R+jX \right) \\ \\ { E }_{ r }&=&{ \dot { E } }_{ s }-\dot { I } \left( R+jX \right) \\ \\ { E }_{ r }&=&{ E }_{ s }cosδ+j{ E }_{ s }sinδ-\left( Icosθ-jIsinθ \right) \left( R+jX \right) \\ \\ { E }_{ r }&=&{ E }_{ s }cosδ+j{ E }_{ s }sinδ-\left( IRcosθ+jIXcosθ-jIRsinθ+IXsinθ \right) \\ \\ { E }_{ r }&=&{ E }_{ s }cosδ+j{ E }_{ s }sinδ-IRcosθ-jIXcosθ+jIRsinθ-IXsinθ\end{eqnarray}$$
ここで\({ E }_{ r }\)は基準ベクトルであり、右辺の虚数成分はすべて消えるので
$${ E }_{ r }={ E }_{ s }cosδ-IRcosθ-IXsinθ$$
この\( { E }_{ r }\)を\(\sqrt { 3 } \)倍して\( { V }_{ r }\)を求めることができます。
③負荷の有効電力と無効電力
負荷の有効電力Pと無効電力Qは②式と③式の二つを使います。
流れは②式の共役複素数を③式に代入するだけです。(重要)
$$\begin{eqnarray}\dot { I } &=&\frac { { E }_{ s }cosδ+j{ E }_{ s }sinδ-{ E }_{ r } }{ R+jX } …②\\ \\ \bar { \dot { I } } &=&\frac { { E }_{ s }cosδ-{ E }_{ r }-j{ E }_{ s }sinδ }{ R-jX } \end{eqnarray}$$
これを③式に代入します。
$$3{ E }_{ r }\bar { \dot { I } } =P+jQ…③$$
$$3{ E }_{ r }×\frac { { E }_{ s }cosδ-{ E }_{ r }-j{ E }_{ s }sinδ }{ R-jX } =P+jQ$$
ここから左辺の分母と分子にR+jXを掛けていくのですが、電験2種でこれ以上の計算は見たことがありませんので、電験2種の問題で比較的よく出題される、送電線路抵抗Rを無視するパターンで進めていきます。
$$\begin{eqnarray}3{ E }_{ r }×\frac { { E }_{ s }cosδ-{ E }_{ r }-j{ E }_{ s }sinδ }{ -jX } &=&P+jQ\\ \\ 3{ E }_{ r }×\frac { { E }_{ s }sinδ+j\left( { E }_{ s }cosδ-{ E }_{ r } \right) }{ X } &=&P+jQ\end{eqnarray}$$
ここで実部と虚部に分けてPとQについての式を立てます。
$$\begin{eqnarray}P&=&\frac { 3{ E }_{ s }{ E }_{ r }sinδ }{ X } \\ \\ P&=&\frac { { V }_{ s }{ V }_{ r }sinδ }{ X } \\ \\ Q&=&\frac { 3{ E }_{ r }\left( { E }_{ s }cosδ-{ E }_{ r } \right) }{ X } \\ \\ Q&=&\frac { { 3{ E }_{ s }{ E }_{ r } }cosδ-3{ { E }_{ r } }^{ 2 } }{ X } \\ \\ Q&=&\frac { { { V }_{ s }{ V }_{ r } }cosδ-{ { V }_{ r } }^{ 2 } }{ X } \end{eqnarray}$$
という感じでPとQを求めることができます。
このPとQの最終の形はかなりの頻度で出てくる形なので覚えておくといいでしょう。
$$P=\frac { { V }_{ s }{ V }_{ r }sinδ }{ X } $$
$$Q=\frac { { { V }_{ s }{ V }_{ r } }cosδ-{ { V }_{ r } }^{ 2 } }{ X } $$
④受電端力率
先ほど求めたPとQを使って、力率は
$$cosθ=\frac { P }{ \sqrt { { P }^{ 2 }+{ Q }^{ 2 } } } $$
これで求められます。
ここまでのまとめ
淡々と長々とした説明でごめんなさい…。
今挙げた中で必ず覚えるべき公式は以下の2つだけです。(PとQの公式も覚えておくとgood!)
$${ \dot { E } }_{ s }= { E }_{ r }+\dot { I } \left( R+jX \right) …①$$
$$3{ E }_{ r }\bar { \dot { I } } =P+jQ…③$$
問題によってRを考慮しない問題もありますが、基本的にこの二つの公式を組み合わせたら大体どんな問題も解けるので必ずおさえておきましょう。
練習問題
【問題】
送電端および受電端の電圧がそれぞれ154[kV]および150[kV]である三相1回線送電線の送電端電圧と受電端電圧の位相差が30°の場合について、次の問に答えよ。
ただし、1相当たりの線路リアクタンスはj30[Ω]とし、その他のインピーダンスは無視するものとする。
[平成8年電力管理より 改題]
(1)線路電流[A]の大きさはいくらか。
(2)受電端の力率[%]はいくらか。
【解き方】
まずは回路図や要素を下図のように定義してベクトル図を書いてみます。
回路図はこんな感じで大丈夫です。
ベクトル図は・・・途中まで書いてみましょうか。
このように書いて・・・
これで完成ですね。電流が\({E}_{r}\)より進み力率であることに注意しておきましょう。
(1)線路電流\(\dot { I }[A] \)について
ベクトル図より
$${ \dot { E } }_{ s }={ E }_{ r }+j30\dot { I } $$
これを式変形して、
$$\begin{eqnarray}\dot { I } &=&\frac { { \dot { E } }_{ s }-{ E }_{ r } }{ j30 } \\ \\ \dot { I } &=&\frac { { E }_{ s }cos30°+j{ E }_{ s }sin30°-{ E }_{ r } }{ j30 } \\ \\ \dot { I } &=&\frac { { E }_{ s }cos30°-{ E }_{ r }+j{ E }_{ s }sin30° }{ j30 } \\ \\ \left| \dot { I } \right| &=&\frac { \sqrt { { \left( { E }_{ s }cos30°-{ E }_{ r } \right) }^{ 2 }+{ \left( { E }_{ s }sin30° \right) }^{ 2 } } }{ 30 } \\ \\ \left| \dot { I } \right| &=&\frac { \sqrt { { \left( \frac { 154000 }{ \sqrt { 3 } } \frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } -\frac { 150000 }{ \sqrt { 3 } } \right) }^{ 2 }+{ \left( \frac { 154000 }{ \sqrt { 3 } } \frac { 1 }{ 2 } \right) }^{ 2 } } }{ 30 } \\ \\ \left| \dot { I } \right| &≒&1520[A]\end{eqnarray}$$
という風に電流が求められます。
(2)受電端の力率cosθについて
先ほどの有効電力Pと無効電力Qの式をそのまま使います。(導出は省略)
$$\begin{eqnarray}P&=&\frac { { V }_{ s }{ V }_{ r }sinδ }{ X } \\ \\ P&=&\frac { 154000×150000×\frac { 1 }{ 2 } }{ 30 }\\\\P&=&385×{ 10 }^{ 6 }[W]\\\\Q&=&\frac { { { V }_{ s }{ V }_{ r } }cosδ-{ { V }_{ r } }^{ 2 } }{ X } \\ \\ Q&=&\frac { 154000×150000×\frac { \sqrt { 3 } }{ 2 } -{ 150000 }^{ 2 } }{ 30 } \\ \\ Q&≒&-83.160×{ 10 }^{ 6 }[var]\end{eqnarray}$$
よって力率cosθは
$$\begin{eqnarray}cosθ&=&\frac { P }{ \sqrt { { P }^{ 2 }+{ Q }^{ 2 } } } \\ \\ cosθ&=&\frac { 385 }{ \sqrt { { 385 }^{ 2 }+{ \left( -83.160 \right) }^{ 2 } } } \\ \\ cosθ&=&\frac { 385 }{ 393.88 } \\ \\ cosθ&≒&0.977=97.7[%](進み)\end{eqnarray}$$
という風に力率が求められます。
途中の計算は大変ですが、ベクトルの式と電力の式を使えばほとんどの問題が解けるので、問題量をたくさんこなして、計算ミス無く素早く解けるように練習しておくとよいと思います。
以上です!お疲れ様でした!