誘導機
誘導機の基礎
誘導電動機と誘導発電機の2種類ありますが、先に誘導電動機について説明します。
誘導電動機・・・固定子(一次側)のつくる回転磁界によって回転子(二次側)にトルクを発生させ、回転子を回す機器のこと。
同期速度\({ N }_{ s }[{ min }^{ -1 }]\)・・・回転磁界の回転速度を表していて、以下の公式で求めることができます。
$${ N }_{ s }=\frac { 120f }{ p } $$
p:極数 f:周波数[Hz]
回転速度\({ N }[{ min }^{ -1 }]\)・・・回転子の回転速度を表しています。
滑りs・・・誘導電動機では、基本的に回転速度が同期速度よりも遅くなり、同期速度に対する速度差を滑りとよび以下の公式で表されます。
$$s=\frac { { N }_{ s }-N }{ { N }_{ s } }$$
※%表示にする場合は最後に×100をする。
また、公式から分かる通り
s=1のときは、回転速度が0なので、起動時や停止時を表していて
s=0のときは、同期速度と回転速度が一致していて無負荷の状態を表しています。
また、
0<s<1のときは誘導機は誘導電動機としてはたらき、
s<0(滑りが負)のときは、誘導機は誘導発電機としてはたらきます。
誘導機の等価回路
極数p、電源周波数f[Hz]の誘導電動機の1相分の等価回路を示すと下図のようになります。
この回路図はL型等価回路と呼ばれて非常によく出題されるので確実に全て理解しましょう。
また、L型等価回路を作る際には、二次抵抗の分母に必ずsをつけてください。(このsはルールみたいなものだと思っていただければ・・・後ほど二次銅損や機械的出力の部分で説明します。)
とはいっても、基本的なオームの法則を使って解くだけなのでそこまで難しくはないです。
↓一度回路図をスッキリさせますね。
この回路図から以下の様々な要素を求められるようになっておきましょう。
①一次負荷電流\({ { I }_{ 1 } }^{ ‘ }[A]\)
$${ { I }_{ 1 } }^{ \prime }=\frac { V }{ \sqrt { { \left( { r }_{ 1 }+\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s } \right) }^{ 2 }+{ \left( { x }_{ 1 }+{ { x }_{ 2 } }^{ \prime } \right) }^{ 2 } } } $$
はい、こんな感じです。見た目はあれですが、そこまで難しくはないかと思います。
②励磁電流\({ { I }_{ 0 } }[A]\)
$${ { I }_{ 0 } }=\sqrt { \left( { g }_{ 0 }V \right) ^{ 2 }+\left( b_{ 0 }V \right) ^{ 2 } } $$
\({g}_{0}{V}\)は励磁部の抵抗成分を流れる電流で、\({b}_{0}{V}\)は励磁部のインダクタンス成分を流れる電流です。
問題によってはインダクタンス成分を流れる電流を無視することもあるのでその際は\({g}_{0}{V}\)だけでOKです。
③一次電流\({ { I }_{ 1 } }[A]\)
$$\dot { { I }_{ 1 } } =\dot { { I }_{ 0 } } +{ \dot { { I }_{ 1 } } }^{ \prime }$$
となりますが、一次電流は①で求めた、一次負荷電流と②で求めた励磁電流のベクトル和になるので①と②の大きさの和としないように気を付けてください。①も②もベクトルが違いますので・・・。
誘導機の損失と効率
以降は、銅損や鉄損や色々とややこしいのが出てくるので少し予習をしておきましょう。
鉄損・・・励磁回路の抵抗成分で消費する損失
一次銅損・・・一次側の抵抗によって消費する損失
二次入力・・・二次銅損と機械的出力の和のことで、分かりやすい図を以下に示します。
このように、二次入力というのは二次銅損と機械的出力を合成したものになります。
よく分からない人は下の二つの抵抗を足して上の抵抗になることを確かめてみましょう。
図にまとめるとこんな感じになります↓
これら、二次入力・二次銅損・機械的出力の3つの関係性をまとめると、
このようになり、あの有名な1:s:(1-s)という比率が出来上がります。(超重要です!)
これ以降、単位が[W]のものは総じて3倍する必要があるかどうかを問題文から見極めましょう。
というのは、このL型等価回路は1相分を表しているので問題でよく問われる3相分の鉄損や銅損や出力や入力は、全て3倍にする必要があります。なので、その辺りをすごく意識しておいてください。今回は全て3相分として計算していきます。
④鉄損\({ { P }_{ i } }[W]\)
$${ P }_{ i }=3{ g }_{ 0 }{ V }^{ 2 }$$
⑤一次銅損\({ { P }_{ c1 } }[W]\)
$${ P }_{ c1 }=3{ r }_{ 1 }{ { I }_{ 1 }^{ \prime } }^{ 2 }$$
⑥二次入力\({ { P }_{ 2 } }[W]\)
$${ P }_{ 2 }=3\frac { { r }_{ 2 }^{ \prime } }{ s } { { I }_{ 1 }^{ \prime } }^{ 2 }$$
⑦機械的出力\({ { P }_{ o } }[W]\)
$${ P }_{ o }=3\frac { 1-s }{ s } { r }_{ 2 }^{ \prime }{ { I }_{ 1 }^{ \prime } }^{ 2 }$$
もしくは
$${ P }_{ o }={ P }_{ 2 }(1-s)$$
⑧二次銅損\({ { P }_{ c2 } }[W]\)
$${ P }_{ c2 }=3{ r }_{ 2 }^{ \prime }{ { I }_{ 1 }^{ \prime } }^{ 2 }$$
もしくは
$${ P }_{ c2 }={ P }_{ 2 }×s$$
⑨効率η[%]
$$η=\frac { { P }_{ o } }{ { P }_{ 0 }+{ P }_{ i }+{ P }_{ c1 }+{ P }_{ c2 } } ×100$$
⑩トルク\({ T }[N・m]\)
誘導機の同期回転角速度を\({\omega}_{s}[rad/s]\)
誘導機の回転角速度を\({\omega}[rad/s]\)とすると、
$$T=\frac { { P }_{ 2 } }{ { ω }_{ s } } $$
と表せます。また、
$$\begin{cases} { P }_{ 0 }={ P }_{ 2 }(1-s) \\ { ω }={ ω }_{ s }(1-s) \end{cases}$$
であるので、
$$T=\frac { { P }_{ 2 } }{ { ω }_{ s } } =\frac { { P }_{ 0 } }{ ω } $$
このようにトルクを求めるときは、回転角速度と使う求め方と、同期回転角速度を使う求め方の2パターンの解き方があります。
両方知っておかないと解けない問題もあるので必ず両方おさえておきましょう。
最大トルクとなる滑りについて
トルクの公式は先ほどの説明より、
$$T=\frac { { P }_{ 2 } }{ { ω }_{ s } } $$
でした。ここから式変形をして、トルクが最大となる滑りsを求めていきます。
$$T=\frac { 3×\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s } ×{ { I }_{ 1 }^{ \prime } }^{ 2 } }{ 2π×\frac { { N }_{ s } }{ 60 } } $$
$$T=\frac { 3×\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s } }{ 2π×\frac { { N }_{ s } }{ 60 } } ×\frac { { V }^{ 2 } }{ { \left( { r }_{ 1 }+\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s } \right) }^{ 2 }+{ \left( { x }_{ 1 }+{ { x }_{ 2 } }^{ \prime } \right) }^{ 2 } } $$
なので、
$$s\left( { { r }_{ 1 } }^{ 2 }+\frac { 2{ r }_{ 1 }{ r }_{ 2 }^{ \prime } }{ s } +\frac { { { r }_{ 2 }^{ \prime } }^{ 2 } }{ { s }^{ 2 } } \right) +s{ \left( { x }_{ 1 }+{ { x }_{ 2 } }^{ \prime } \right) }^{ 2 }$$
を滑りsで微分して0となる方程式を立てます。
$${ { r }_{ 1 } }^{ 2 }-\frac { { { r }_{ 2 }^{ \prime } }^{ 2 } }{ { s }^{ 2 } } +{ \left( { x }_{ 1 }+{ { x }_{ 2 } }^{ \prime } \right) }^{ 2 }=0$$
この形を丸暗記しておくと計算がかなり楽になります。
ここから、最大トルク発生時の滑りを\({s}_{max}\)とすると
上式の条件が成立するときの滑りが最大トルクを発生させるすべりとなります。
また、滑りに対するトルクの特性をグラフに表すと以下のようになります。
数値はあまり気にせず、グラフの形をしっかりと覚えておきましょう。
トルクの比例推移について
誘導電動機の回転速度を変化させると滑りsが変化し、トルクの式↓よりトルクが変化します。
$$T=\frac { 3×\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s } }{ 2π×\frac { { N }_{ s } }{ 60 } } ×\frac { { V }^{ 2 } }{ { \left( { r }_{ 1 }+\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s } \right) }^{ 2 }+{ \left( { x }_{ 1 }+{ { x }_{ 2 } }^{ \prime } \right) }^{ 2 } } $$
トルクを一定にしながら回転速度を変化させるためには\(\frac { { { r }_{ 2 } }^{ \prime } }{ s }\)が一定となればトルクを一定にすることができます。このことを比例推移とよびます。
よって、最初の滑りを\({s}_{1}\)、回転速度変化後の滑りを\({s}_{2}\)、2次側巻線抵抗に直列に加える抵抗をR[Ω](一次換算値)とすると
↑の条件が満たされるとき、トルクが一定となる。
また、二次側に抵抗を挿入し二次抵抗を変化させたときの滑りとトルクの特性を下図に示すと、
このようになり、滑りと二次抵抗が比例関係となっているのが分かるはず・・・。
グラフでは最大トルクでの滑りで比較しているが、それより右側のトルクでも同じように滑りと二次抵抗が比例していることがグラフから分かるかと思います。
このように、二次側に抵抗を挿入することにより一定のトルクで回転速度を変化させることができるようになります。